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明治神宮の自然と共生する”新国立競技場”の創造を
―東京オリンピックで失われた川を東京オリンピック・パラリンピックで取り戻そうー

 1964年東京オリンピックを開催するために、東京都内の多くの川にフタをし、道路などに変えてしまいました。私たち「渋谷川ルネッサンス」は、現在では道路の下を流れる渋谷川を、太陽の下を流れる川として取戻し、より素晴らしい東京を創造したいと活動を続けています。
 今、国立競技場の建て替えが動きだしております。競技場の正面玄関の下を流れている渋谷川を再生することを通じて新しい大都市を創造し、古来より自然と共生してきた日本文化を世界に示す良い機会でもあると考え、『東京オリンピックで失われた川を東京オリンピック・パラリンピックで取り戻し、明治神宮の自然と共生する“新国立競技場”を創造しよう』と提言します。


1) この場所はもともと明治神宮外苑として造成されました。国費でつくられた内苑とは別に、寄付金によってつくられた地域であり、多くの国民の総意により管理・運営されてきたという歴史を持っております。また、本多静六博士の思想のもと造営された神宮の杜は、人工植林されたものでしたが、自然と共生すること、すなわち「自然の恵みと畏れ」とともに生きてきた日本人独特の感性を大切に育みながら年月を重ね、今日みるような自然森のような姿となっております。それだけに、この地は国民の総意として議論がつくされ、神宮内苑の思想に沿った形で次の世代に受け継がれるべき神聖な場所であるといえるのです。 
 限られた資源を欲望のままにむさぼり採り、生産・消費・廃棄してきた私たち人類の活動も、自然の浄化システムでは対応出来ないほどに環境を傷つけ、限界を迎えつつあります。日本人が古来より大切にしてきた自然と共生するという考え方を活かし、水と緑あふれる都市づくりを世界に示すことは、世界の今後の在り方を考える上で大きな意味を持つものと考えます。

2) 現在では都内の中小河川の多くはその姿を消しておりますが、雨が降れば低い場所に水が集まり、やがて川となって流れるということは都市であっても田舎であっても当たり前の姿であります。この地には、新宿御苑の池や寺院の池、玉川上水の余水吐けなどが現存しており、渋谷川を"せせらぎ"として復活・再生させることは、今や世界の潮流となりつつある「自然と共生する都市づくり」を進める上で大きな意味を持つと考えます。川を復活・再生させることは、自然に囲まれた憩いの場を提供するだけでなく、夏場の気温上昇の抑制、災害時の貴重な水源としての活用、自然の水循環の再生に繋がり、さらには地下河川トンネルの構築による洪水被害の低減など、多様な効果が期待されます。
 世界の大都市・東京に川を復活・再生させることは、東京の魅力をますます増大させ、世界の中心都市として東京が末永く存続することに繋がるのです。


3) 今回、新国立競技場建設をめぐっては開示情報が少なく、一部の識者・専門家の間でことが進んでしまったという印象をぬぐえません。ロンドンオリンピックのメインスタジアムが、CABE(Commission for Architecture and Built Environment)によって、一般市民と専門家、行政と国が互いに協力して出来上がった先例に学び、関係する自治体、団体、国、そして一般市民が議論を尽くして周辺整備を進めなければなりません。現在のこのタイミングが、残念ながら新国立競技場の周辺整備について議論出来る最後のチャンスです。私たちは、この機会を決して無駄にしてはなりません。

 歴史的な経緯からみた明治神宮の内苑・外苑の地が持つ意味をどう捉えるのかという観点と、未来の地球を見つめて次の世代に引き継ぐべき都市づくりの思想という観点から、2020年オリンピック・パラリンピックの開催が大きな転機となり得ることは間違いありません。
 川が戻れば、そこに暮らす人・訪れる人が変わり、やがて街や社会が変わります。歴史そのものが大きく変わるのです。ぜひとも渋谷川を再生させるべく、多方面からのご協力をお願い申し上げます。